ドナーの安全確保に注目
生体肝移植で専門学会



 手術実施が2,300例を超え、技術的にも世界をリードする日本の生体肝移植。近年、成人への移植が急増し、切除される肝臓も大きくなる傾向にある。
 4月中旬に長崎市で開かれた肝移植の専門学会「日本肝移植研究会」(会長、門田守人・大阪大教授)では、これまで話題になることが少なかった肝臓提供者の安全確保に注目が集まった。
 国内の生体肝移植は1989年に始まった。近親者を提供者に、最初は胆道閉鎖症の小児らが対象だったが、次第にウイルス性肝硬変や肝臓がんの成人にも行われるようになった。99年には19歳以上への移植件数が、18歳以下への移植を上回った。
 これに伴い、切除する提供者の肝臓は次第に大きくなった。提供者に最低限、どれだけの肝臓を残すべきかの定説はないが、ひとつの目安とされる30%を割るケースも時折、報告されている。
 米国で7例の提供者死亡があったと昨年、医学専門誌に論文が掲載されたのを受け、同研究会は国内の提供者を調査。死亡例はなかったが、胆汁の漏れなど手術後の合併症が約13%の人に見られることが分かった。
 今年1月には、京都大病院で提供者となった女性が重症の肝不全で重体になり、別の提供者からドミノ肝移植を受ける事態も起きた。この女性は移植終了から97日目の5月4日、多臓器不全のため亡くなった。
 同研究会が設置した委員会の調査で、この女性は計画より残った肝臓が10%以上少なかった上、手術前には診断されていなかった「非アルコール性脂肪性肝炎」だったことも分かった。
 長崎の研究会では、一部の移植実施施設が提供者の健康状態などを調べ発表した。ほとんどの人は提供手術後、順調に回復して社会復帰。生活制限などはなかったが、腹部の不快感や痛みを訴える人も施設により数%から数十%に上った。
 提供者のフォロー態勢については「1、3、6、12ヵ月後に血液とCT検査」(大阪大)「1、3、6、12ヵ月後に血液。3、12ヵ月後にCT」(信州大)など、具体的時期や項目を決めた施設があった一方で、3ヵ月以降は希望者のみのところや、退院後に定期検査はしていないところがあるなど、差も浮かび上がった。
 同研究会は今春、提供の医学的指針を策定。健康状態を長期間追跡するため、全提供者の登録制も始めた。
 安全対策を担当する里見進・東北大医学部教授は「どれだけ肝臓を残すのがいいのかなど、具体的な線引きは難しいのが現状だが、さまざまな情報を集めて、指針の改定などに反映させたい」と話している。
(2003年5月10日 土曜日 岐阜新聞)


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生体肝移植 ドナー死亡
「最悪のシナリオ」
医療現場に難しい課題



娘に肝臓の一部を生体肝移植で提供し、肝不全に陥りドミノ移植を受けた母親が4日、京都大病院(京都市左京区)で亡くなった。死亡という最悪の結果を招いた今回の手術は、医療現場に難しい課題を改めて突き付ける形となった。医療関係の識者に話を聞いた。

塚田敬義・岐阜大教授(生命倫理学専攻)は「今回の悲劇はまさに最悪のシナリオが重なって起きたと思う。生命倫理を研究する立場からみても、今や生体肝移植は緊急避難的な措置として必要と言わざるを得ず、生体肝移植全般については必ずしも否定的に考えるものではない。しかし、これまでのドナー選定の基準を守っていても死亡という結果につながった今回の事例は、大きな警告として受け止めるべきだろう。医療側の単なる失敗や勇み足ととらえるのではなく、ドナーの基準の見直しを進めるなど、今後の教訓として生かしてほしい」と話している。

一方、日本肝移植研究会常任世話人である東京大学医学部の幕内雅敏教授は「大変不幸な出来事だが、生体肝移植に限らず、どんな手術であれリスクはある。今回の件でドナーが手術に対して不安に思うかもしれないが、他の国に比べて日本における死亡率はいまだ低い。しかし、これからも慎重に手術をしていかなければならない」と語った。
(平成15年5月5日 毎日新聞 社会面)


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生体肝移植
ドナーが初の死亡 京大病院 昨夏摘出、肝不全に

娘に対する生体肝移植のドナーとして肝臓の一部を摘出し、肝不全で重体になり、京都大病院(京都市左京区)で今年1月にドミノ肝移植手術を受けた40歳代後半の女性が4日午後4時50分、死亡した。死因は多臓器不全。国内ではこれまで約2000例の生体肝移植が行われているが、ドナーが死亡したのは初めて。

再手術後も回復せず

このうち、同病院は、半数近い約900例を実施している。死亡した女性は昨年8月、肝臓の一部を10歳代後半になる自分の娘に提供した。この娘は94年、胆道閉鎖症のため父親から生体肝移植を受けており、2度目のドナーは近親者ではこの女性しかいなかった。

女性は脂肪肝で、通常なら約1カ月間の運動や食事療法で状態を改善してから移植手術に臨むはずだったが、娘の症状が急激に悪化したため緊急手術が必要になり、女性と家族に対するインフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)を経て生体肝移植に踏み切ったという。

肝臓は再生能力が高く、通常35パーセント以上残せば数カ月で元の大きさに戻る。しかし、脂肪肝で機能していない部分を除去する必要があったため摘出量が増え、26パーセントしか残らなかったほか、肝硬変を起こしうる非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)だったことが日本肝移植研究会の調査で分かっている。

女性は摘出手術後、歩けるまで回復。一度は一般病棟に移り肝容積も再生したが、腹水が止まらず、化のう性胆管炎と肺炎を合併して肝不全が進行。1月に入ってこん睡状態に陥り、同病院は同月27日午後、名古屋大病院で生体肝移植を受けたため摘出した30歳代の患者の肝臓と交換するドミノ肝移植を実施。13時間20分をかけた手術の末、肝臓が胆汁を分泌するなど当初は順調な回復ぶりだったが、意識は一度も戻らないまま、今月3日深夜より血圧の低下傾向が表れ、容態が悪化していた。

国際的な統計によると、欧米で生体肝移植によるドナーの死亡例が7例報告されており、死亡率は1パーセント以下と推定されている。

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